アナロジー餅🍡

高層ビルの194階にある素敵なマドリッド風シーチキンレストランで僕とあながきさんはわかめサラダを食していた。周庭・自決派の辿るであろう末路やカクテル・ソーダの欺瞞、処女性と白色テロルの核融合点についての話に花を咲かせながら。

「左翼なんかワサビ入りシュー・クリームが群れを成しているようなものだろ。その、彼らが言う憧憬なんて太くないシーチキンより...遥かにケツが青くてね、つまりは最悪だ。マルクスヘーゲルの太鼓を叩くヒットラー・ユーゲントの連中に言いたくなる。唯物論じゃ"アオハル"はツマラナイんだ!スメラミコトイヤサカ!」
 そう言い終えるなり彼はこめかみに当てていた拳銃の引き金を引き抜いた。憮然たる面持ちの僕と動揺に覆われた店内を尻目に、苦笑しながらムックリと起き上ってくる様には、タタル族製のマトリョシカが胸中を巡った。

野村秋介のモノマネだよ。ウヨヨンキャラの俺以外、こんな汚れ仕事を誰がやると思う?サヨヨンのトマトはこんな熱意を詰め込めるかな?」
「浮世離れした技巧です。緑綬褒章でひとまず間違いないでしょうね。」としきりに褒めそやすと、ヤー、ヤー、と感嘆の声を発しながら、キンキンに冷えたトマト・ジュースを追加注文してくれた。
「にしてもあながきさん、随分と形而上学的な事柄についてアジっていましたね。もしかして哲学をおやりになられてたとか?」と訊ねる、
「大正解だよ。愛国学園大学文学部哲学科、1944年の牟田口ゼミ生だった。」
「だからといって街の哲学者をしてる暇はないんだよ。燃やさなければならない、燃焼ゴミ以外の諸般をね。なんだかわかるかな?」
 それを聞いた僕はひどく当惑した。ゴミ以外にわざわざ燃やすに価するものなんてこの世に一つしか存在しないじゃないか。
「その...天皇裕仁御真影だったりします?」隣で食事をしていた宮内庁職員の耳がピクっと動いた。
「バカを言うな、そんなんじゃ給付金もおりないぞ。第一に俺は公務員なんだよ。」
「わからないなら教えようか、思い出だよ。それも映像や音がくっきり鮮明に浮かび上がってくるような、嫌な記憶のさ。そういう類いのものが心身に影響を及ぼす可能性だって往々にしてあるだろ。そういった負の連鎖を絶ち切る為に燃やすんだよ。」
 閉店時間が迫っていた。
「燃やしたあとはどうなるんです?」
「...二酸化炭素がいっぱい出るよ、やたらとケミカルな色をした煙に混じってさ。」

 この男が環境保護論者を毛嫌いする理由が分かった気がする、思い出焼却時に二酸化炭素がたくさん排出されるのは自然の摂理なんだ。ツバル国の沈下やグレイトバリアリーフの白化なんてこの際どうだっていい。向こう数百年の間、フラッシュ・バックで苦しむ人類が居なくなるのなら。